学校だより第11号(令和6年11月25日)を掲載しました。

「ふるさとを愛し、未来をつなぐ総合的な学習の時間」の実践

1.研究の背景

本校は、島原市の南側に位置し、全校児童366名15学級の中規模校である。

平成3年6月3日に発生した雲仙普賢岳の大火砕流により、校区全体が大きな被害を受け、避難生活を余儀なくされ、学校教育活動にも大きな影響を受けた学校である。火砕流や土石流により家族や家を失った家庭も少なくはない。

また、2つの仮設校舎での教育活動を経験している。災害により失くしたものがある一方、全国からの大きな支援を受け、市民一体となって災害からの復興を成し遂げ、現在に至っている。

島原市では、6月3日を「いのりの日」として位置付け、雲仙普賢岳災害により犠牲になられた方々を慰霊し、災害教訓を後世に伝えていく決意を新たにする日としている。

一方で、児童たちに話を聞くと、田舎よりも都会での便利な生活に憧れるという意見や、災害が起こる地域ではなく、安全な町で暮らしたいという意見をもっているのが現状である。

災害から32年を経過し、噴火災害が風化していくのではないかという懸念がある。

2.研究主題の設定

人口減少や少子高齢化など、地域創生の問題が話題となっている中、各地でふるさと教育の重要性が訴えられている。

この課題に対して具体的な方策を講じなければ、若い世代が地域を離れ、地域の教育力は低下し、地域が消滅してしまうことが危惧される。

今こそ、ふるさとに誇りと愛情をもてる教育が求められている。

そこで、本校は学校教育目標を「ふるさと安中大好き!生命を大切にし、進んで学ぶ、素直でたくましい子どもの育成」と掲げ、雲仙普賢岳に見舞われたことで、全国の方々からたくさんの励ましの言葉や支援をいただいたことや、復興したふるさとの自然や歴史を知り、災害の体験で学んだことを未来に語り継ぎことを重視している。

このことを踏まえ、研究主題を「ふるさとを愛し、未来をつなぐ総合的な学習の時間」の実践とし、副主題を「~雲仙普賢岳を未来へ語り継ぐとともに生命を大切にする防災意識の向上~」と設定した。

3.研究の方法

校内・校外の両側面から、学校・家庭・地域が連携を図りながらふるさとの良さを実感できる教育活動を実施した。

以下、具体的な内容について示す。

(1)校内研修の充実
① 教育課程の見直し

本校では、当時の災害の状況や災害により人々の生活や人々を取り巻く環境への影響を知り、学んだことをまとめ、発信することを、3~6年生における総合的な学習の時間(梅っ子タイム)の教育課程を見直した。

改善点は、発達段階、系統性を重視した実践にすることである。

3・4学年で噴火災害の概要について、5学年で地域の危険個所について、噴火災害学習全般を学び、6学年でジオパーク学習を中心に学ぶ構成にしている。

② 現職教育の実施

児童を指導する教職員が自らの資質・能力を向上させるため、現職教育は不可欠である。本校は夏季休業中に雲仙砂防管理センターから講師を招聘し、研修を行っている。

また、本校校舎には、地域にとっても本校にとっても忘れてはならない出来事を未来へ語り継ぐためにも、災害資料室が設置されている。

新しく赴任した教職員や新1年生はこの災害資料室の資料を閲覧しながらいつでも研修を受けることができる。

③ 同学年との打ち合わせ

地域の人的・物的資源を活用するとともに、改善した教育課程を充実させるために同学年で綿密に打合せを行う。

(2)学校運営協議会の推進
① 学校運営委員の構成

構成メンバーには、若手の実働部隊、地域で長年尽力する方々、伝統文化や専門技術を有した方々を選んだ。

また、公民館主事を地域コーディネーター、本校ミドルリーダー教員を学校コーディネーターとして連絡調整を行うように配慮した。

② 年間活動計画の作成

噴火災害学習やジオパークと関連のある活動としては、災害で失った梅林を復活させた梅ちぎり体験や、長寿会の方々への災害に関するインタビュー、フィールドワーク等が計画されている。

③ 成果と課題の発信

2月ごろに、活動に沿った成果と課題を整理し、学校だよりや学校ホームページ等で広く情報発信する予定にしている。

4.研究の評価・検証

検証1…児童の振り返りにおける気付き・感想

児童たちの意識の中に、噴火災害に関する学習に対して、負のイメージをどの程度もっているのか検証する。

検証2…学校評価アンケートの結果分析

保護者や地域の方にとって、地域の良さを活用した教育を学校が行っているか学校評価アンケートから検証する。

5.研究の実際

3~6年生までの学習カリキュラムに沿って主な学習実践の概要を以下のとおり示していく。

(1)各学年の実践【校内での取組】
3年生の実践 噴火災害について知ろうⅠ・Ⅱ(14時間)
  • 災害資料室の見学や当時を知る人にインタビューをもとに噴火災害について調べるテーマを設定する。
  • いのりの日のキャンドル作り
  • 雲仙岳災害記念館や砂防未来館見学

雲仙岳災害記念館ボランティアの方々のサポートを受けながら、キャンドルづくりを行ったり、災害記念館や定点跡地を見学したりして学習を深めている。

なお、完成したキャンドルは災害記念館で行われる「いのりの灯」イベントにて火が灯される。児童も保護者と多数参加している。

4年生の実践 普賢岳災害について伝えよう(18時間)
  • 噴火災害について課題を作る。
  • 課題について調べ、まとめる。
  • 調べた内容を伝える準備をする。
  • いのりの日集会に向けて発表練習。

第3学年で学習したことを踏まえて、再度噴火災害についてさらに調べてみたい課題を設定し、課題について調べ、発表している。

5年生の実践

 噴火災害について知ろう(2時間)

  • 噴火災害について再確認する。

 自然災害とともに生きる(14時間)

  • 自然災害に強いまちづくりを考える。
  • 実際どのようにどこへ避難をしたらよいのか考える。
  • 防災について、できることを考え、発表する。

雲仙普賢岳災害を体験した学校として、噴火災害後からお世話になっている国土交通省等関係機関からいただいた資料をもとに、安中地区の防災について考え、防災マップを作成して発表している。

6年生の実践 火山とともに生きるⅠ・Ⅱ(14時間)
  • ジオパークについて調べ、発表する計画を立てる。
  • 自分が興味をもったジオスポットについて深めたいテーマを決める。(火山、島原半島の地形や地質、自然環境、防災、歴史、観光、産業等)
  • 火山から受けている恩恵について知る。(湧水、大地の恵み)

自然災害として被害を受けた側面だけではなく、火山の恵みにより恩恵を受けた暮らしをしていること、島原半島がジオパークとしての認定をされていることを含め、ジオスポットについてさらに探究的に学ぶようにしている。

(2)いのりの日集会の実施【校内での取組】

本校は6月3日に、「いのりの日集会」を実施している。先に述べた第4学年の実践を踏まえて、一人一人が書いた作文の中から代表者が発表したり、地域在住の方の講話や図書司書による紙芝居の読み語りを聞いたりしている。

昨年度まではコロナの影響で、上記のとおり、オンラインによる実施を余儀なくされたが、本年度は4年ぶりに体育館で行われ、充実した時間を送ることができた。

なお、この集会は、島原市の教育の基盤である「生命(いのち)・絆・感謝の心」の大切さを確認する機会になっている。

また、集会の終盤には、本校卒業生が作詞した「20年前の手紙」を全校児童で一斉に歌う。

これは、2012年12月にNHK取材を受け、東日本大震災で被災した高校生に向けて歌っている様子である。「災害があったことなんて信じられないくらい」、「ぼくたちの番がきた」等の歌詞が児童の素直な思いが反映されており印象的である。

今後も本校の後輩たちに引き継ぎ、大切に歌っていきたいと考えている。

(3)生活科での実践【校外での取組】

本校は、生活科でも地域素材を活用した取組を行っている。右の写真はわれん川の湧水を見学している様子である。

木場水道や足湯等の場所も見学し、3年生の総合的な学びの時間の実践に円滑につながっている。

(4)学校運営協議会と連携した実践【校外での取組】
① 梅ちぎり

復興のシンボルである安中梅林で安中公民館や社会福祉協議会の方々にお世話になり、梅ちぎりを行っている。

安中梅林は噴火災害を経験した当時の6年生が植樹を始め、10年間かけて1000本を植えてきたものである。

② 噴火災害についてのインタビュー

安中地区長寿会の方々から噴火災害当時の様子について話を聞く活動を行っている。

児童の質問にも丁寧に答えてくださり学び深めている。

6.研究の成果と課題

検証1…児童の振り返りにおける気付き・感想

上記のような振り返り記述から、児童がふるさとのよさに気付き、肯定的な気付きを記述することができるようになった。

検証2…学校評価アンケートの結果分析

上記の結果から、保護者は、「学校がふるさとの特色を生かした教育を行っている。」と評価していることがわかる。

「ふるさとを愛し、未来をつなぐ総合的な学習の時間」の実践が概ねできている。

  1. 過去の出来事について知る学習が大半を占め、主体的、探究的な学びが弱い。
  2. 生活科、総合的な学習の時間の単元及び学年間の学習の系統性についての工夫改善が必要である。
  3. 噴火災害を風化させない取組。マンネリ化を防ぐための工夫や仕かけ

7.結びに

本研究は個人やグループによる研究ではなく、本校に勤務してきた教職員が長年継承してきた取組である。

今回、改めて研究の一環として整理して感じたことは、今後、「児童が主役となる実践」となるために、教育課程のさらなる見直しを含め、日々の実践についてカリキュラム・マネジメントを働かせ、改善していくことが必要ということである。

地域とともにある学校の実現に向け、学校・家庭・地域が連携を図り、今後もふるさとへの愛情をもてる児童を育成していきたいと考えている。

児童が将来大人になっても、地域貢献を考えようとする心を醸成できるようにしていきたい。